引っ越しをすると、引っ越しする前のご近所さん、引っ越し先のご近所さんに、粗品を配ることがありますよね。
私が結婚して家を出たときは、新居がアパートだったので、引っ越し先の両隣、上下階の方にご挨拶と粗品を持って行きました。
その後、引っ越しを手伝って下さった方々と蕎麦の出前を取って「引っ越し蕎麦」を味わいました。
幼い頃、我が家が引っ越しした先は新築一軒家でしたが、母と近所に蕎麦を配った経験があります。思い出してみるとこれも「引っ越し蕎麦」です。
実際にどちらも正しいというのが「引っ越し蕎麦」の由来です。よく考えてみると引っ越しも一つの大きな祝い事のイベントです。
お祝い事には赤飯や紅白餅・饅頭を配ることが多いのに、どうして引っ越しは「蕎麦」なのでしょうか。
引っ越しで蕎麦を戴くことなど、一度も経験していない私。最近では引っ越し蕎麦を贈る習慣さえ知らない人が増えてきました。
引っ越し蕎麦の本当の意味と振舞い方を知って、引っ越しの大きなイベントのしきたりを楽しみませんか?
引っ越し蕎麦の登場は江戸時代中期
そもそも引っ越しで蕎麦を振舞うようになったのはいつの話でしょうか。それは江戸時代中期に江戸を中心に行われていたものといいます。
そもそもお蕎麦と聞けば温かい丼に入った麺と汁を思い浮かべますが、江戸時代に配っていた引っ越し蕎麦はセイロ。
安くて手に入りやすかった蕎麦は、ちょっとした挨拶に適していると考えられました。さらにそれは蕎麦の言葉に引っ掛けたものでもあります。
「細く長く末永く切れない縁」や「おそばに居たい」などの「お付き合い」に関して大きな意味を持つ蕎麦。
当時は隣近所の挨拶は当たり前の時代。「向こう三軒両隣」、自分の家の向かい側3軒と自分の家を挟んで左右の隣に2枚ずつセイロ蕎麦を配っていました。さらに大家さんには5枚のセイロ蕎麦を配っていました。
「おそばに引っ越して来ました、末永くお付き合いください。」
という江戸時代の「江戸ッ子」の粋な洒落で生まれた縁起担ぎが今でも風習として残っています。
蕎麦で無かった時代も
実際に引っ越し蕎麦が始まる前は「小豆粥」を近所に配っていたこともあったようですが、高くなるため蕎麦になったという説もあります。
引っ越し蕎麦が定着すると、実際に蕎麦を作ってもその日に渡せないこともあります。
そのような場合は「蕎麦切手」と呼ばれる商品券を配ることもあったようで、今のように乾麺が普及してからはそのような風習も消えてしまいました。
引っ越し蕎麦を身内、友人、知人と食べた私と、近所に配って回った母。その時代を象徴した引っ越し蕎麦のカタチです。
最近では一緒に蕎麦を食べるために振舞うカタチで、引っ越しの風習を楽しみますが、以前は引っ越し先で近所付き合いが上手くいくことを願う方が優先されていました。
家族同様に近所付き合いが密接だった時代。昭和50年代までは、そのような風習もありました。
しかし、どんどん核家族化していく中で、希薄な近所付き合いに変わったため、一緒に蕎麦を食べることなど、今では考えられません。
それでも引っ越しをしたら、新しいご近所さんには何か渡したいと思う家庭も少なくありません。
先日も引っ越ししてきた家族から、指定ゴミ袋を頂きました。洒落よりも実用性、現代の引っ越し蕎麦はそのように変化しているようです。
引っ越し蕎麦を食べよう
実際に蕎麦には沢山の栄養があります。蕎麦はそば粉と水で作られたもの。良質なたんぱく質やアミノ酸を多く含み、ビタミンB群も多く含まれています。
日本人が不足しがちなB1・B2を多く含み、心臓病予防や動脈硬化、高血圧の予防などにも効果的です。
さらに疲労回復にも役立つと言われるビタミンB1が含まれているので、引っ越しで疲れた体を回復させるにも効果的と言えます。
また、毛細血管の働きを安定させて強化させることで脳出血などの予防にもつながる「ルチン」を多く含んでいます。
食物繊維も豊富に含まれているので、同じ麺類のうどんと比較すると蕎麦の方が断然、ダイエットに効果的な食べ物です。
さらにアンチエイジングに欠かせない栄養素も多く含んでいるので、疲労を回復させ老化を予防する効果も期待出来るのが蕎麦の良さです。
引っ越し蕎麦の風習を楽しむためには
このように、近所付き合いの風習として伝わってきた「引っ越し蕎麦」。最近の希薄な近所関係では、中々思うように引っ越し蕎麦を渡す機会もありません。
さらに気をつけなければならないのが、「蕎麦アレルギー」の人。蕎麦は栄養価も高い反面、少量でもアレルギーを引き起こしてしまう可能性があります。
蕎麦に含まれるたんぱく質が原因で起こりますが、後にアレルギーで大変だったと言われないために、無難なものを配るようになったのかも知れません。
それでも、日本の古くから伝わる風習。これからお世話になりますという気持ちを込めて、ご近所に何かを持って、ご挨拶に行くことは良いことですね。